第Xa因子阻害薬服用患者において重篤な出血性合併症を考慮した場合 第Xa因子阻害薬を継続のまま抜歯することが推奨されるか?

アクアデンタルクリニック院長の高田です。
日本口腔外科学会から出ている
「 抗血栓療法患者の抜歯のガイドライン」 を読んで勉強しています。
ガイドラインの中の大切な内容をまとめながら、ブログに残していきたいと思います。

 

第Xa因子阻害薬(リバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバン)服 用患者で,原疾患が安定し至適量が投与されている患者では,第Xa因子 阻害薬を継続投与のまま抜歯を行っても,適切な局所止血を行えば重篤な出血性合併症を発症 する危険性は少ないとされている。

第Xa因子阻害薬(リバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバン)の内服を継続した抜歯に 関するランダム化比較試験の報告も症例報告も現時点ではない.リバーロキサバンに関しては,専 門家の総説において,腎機能に異常がなく出血のリスクもない場合,適切な局所処置を行うことで 継続投与下での抜歯が可能と記載されている.さらに,日本循環器学会などの4 学会による「心房細動治療(薬物)ガイドライン」には,「新規経口抗凝固薬に ついては十分なエビデンスは確立されていないが,ワルファリンに準じて継続下での抜歯が勧めら れる.」と記載されている .  一方,ROCKET AF試験において,心房細動患者の脳卒中または全身性塞栓症の発症 抑制では,リバーロキサバンはワルファリンに対し非劣性を示したが,試験終了後の標準的治療へ の移行期間中に,リバーロキサバン投与群において脳卒中あるいは全身性塞栓症リスクが有意に上 昇した(リバーロキサバン6.42% vs ワルファリン1.73%,p=0.0044).われわれ歯科 従事者はワルファリン以上の頻度で発生するリバーロキサバン休薬後の血栓塞栓症を極めて重大に 受け止めるべきであろう.  第Xa因子阻害薬内服時の抜歯時期に関しては,その半減期が5~12時間と短く,Tmaxは投与 後1~4時間であることから,Turpieらはリバーロキサバン内服患者 の抜歯前に休薬の必要はないが,ピーク時を避けて抜歯するよう推奨している.また, European Heart Rhythm Associationは,Practical guideにて,1~3本の単純抜歯では新規経口 抗凝固薬を休薬する必要はないが,可能であれば内服12時間以降のトラフ時に処置を行い,抜歯 窩の縫合と完全止血後の帰宅,さらには術後の5%トラネキサム酸による1日4回の含嗽を5日間 継続することを推奨している.  第Xa因子阻害薬の抗凝固効果に関するモニタリングに関しては,ダビガトラン同様,PK/PD が十分予測可能で治療域も広いことから,その必要がないことが各種大規模試験で実証.しかしながら,内服患者における出血性合併症や血栓塞栓症の発症は,ワルファ リンと同程度に生じることから,モニタリング検査の必要性が提唱されてきた.現在のところ,リ バーロキサバンとエドキサバンにおいては,抗Xa因子活性の測定が定量的であるとされているが, 実用的である程度の相関性を有する,PTとの相関を認めたとの報告も認められる .  以上を総合すると,第Xa因子阻害薬内服患者における抜歯は,内服継続下で施行可能であると 考えられるが,ダビガト.抜歯の侵襲度は,普通抜歯のほか3歯までの多数歯抜歯および難抜歯を含み, 少数例では5歯までの多数歯抜歯も含んでいた.本結果とBAT研究との違いは明らかではないが, 頭蓋内出血などとは異なり抜歯においては十分な局所止血処置が可能であるため,抗血栓薬の組み 合わせの違いによる抜歯後出血の発生率の差は著明にはみられなかったと考えられる.  ただし,1文献で,ワルファリンと抗血小板薬1剤併用患者における抜歯時止血困難は6.7%と やや高く ,また,別の文献では,1例で抜歯後出血のために6回にわたる局所止血処置に 加え,ビタミンKの投与や赤血球輸血が必要であったとの報もあり,いつでも適切な対 応がとれる体制を整備しておく必要がある.  抜歯や内視鏡検査などに際し,ワルファリンやアスピリンを中断または減量することにより,重 篤な血栓・塞栓症が発症することにて示さ れている.したがって,ワルファリン単独投与とワルファリンと抗血小板薬の併用では,抜歯後出 血の発生率には明らかな差はみられておらず,また,血栓・塞栓症の発症の報告もないことから, ワルファリンと抗血小板薬を併用している患者においては,両薬剤を継続して抜歯を行い,十分な 局所止血処置を行うことが推奨される 。

直接トロンビン阻害薬を継続のまま抜歯をすることが推奨されるか?

アクアデンタルクリニック院長の高田です。
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直接トロンビン阻害薬(ダビガトラン)服用患者で,原疾患が安定し,至 適量が投与されている患者では,ダビガトランを継続投与のまま抜歯を 行っても,適切な局所止血を行えば重篤な出血性合併症を発症する危険性は少ないとされてい る(エビデンスレベルC).ただし,科学的根拠を示す報告は少なく,今後のデータの蓄積が必 要である。

症例報告では,ダビガトラン服用患者5例の抜歯を4例は服用継続下に,1例は処置48時間前 に休薬して行い,抜歯窩を緊密に縫合した.その結果,4例は止血良好であったが,服用を継続し た1例で抜歯後出血を認め,再縫合とダビガトランの休薬により止血した.現時点では, ダビガトラン服用患者の抜歯に対する科学的根拠はないが,多くの専門家が,単純抜歯の場合,適 切な局所止血処置を併用すれば,ダビガトランは継続投与のままでよいと論じている.実際,近年大幅に改定された「抗血栓薬服用患者に対する消化器内視鏡ガイド ライン」でも,単なる観察や生検であれば,ダビガトランを休薬なしで施行するよう記載されてい る .さらに,日本循環器学会などの4学会による「心房細動治療(薬物)ガイドライン 」には,「新規経口抗凝固薬については十分なエビデンスは確立されていないが, ワルファリンに準じて継続下での抜歯が勧められる.」と記載されている .  一方,ダビガトラン服用患者で待機手術が必要な場合は,手術の侵襲度と腎機能にあわせてダビ ガトランを休薬することが推奨されている .本報告に基づき,Romondらは 腎機能が正常な患者に対し,ダビガトランを処置24時間前に休薬し,8本の抜歯と歯槽骨整形を行っ た.抜歯窩に吸収性ゼラチンスポンジを挿入後縫合し,翌日よりダビガトランを再開し たが,止血は良好であり,血栓塞栓症の発症はなかった.

 ダビガトラン休止による血栓塞栓症に関しては,2012年に発表されたRE-LY試験のサブ解析 にて,小手術時の24時間前,あるいは大手術時の2~5日前にダビガトランを休薬した場合,脳 梗塞あるいは全身性塞栓症は,ワルファリン休薬群と同程度の 0.5%に発症することが示され た.さらに,人工膝関節全置換術後,静脈血栓塞栓症予防のために6~10日間のダビ ガトランによる抗血栓療法を行ったRE-MODELランダム化比較試験では,ダビガトラン投与終 了後の重篤あるいは致死的な静脈血栓塞栓症は,コントロール群であるエノキサパリンと同程度で あったことから(ダビガトラン220mgで2.6%,ダビガトラン150mgで3.8%,エノキサパリンで 3.5%),ダビガトラン休薬による凝固能の亢進(リバウンド現象)はないとしている.し かしながら,Thorneらは,ダビガトラン内服中の消化器症状によりアスピリンあるいはワルファ リンへの変更後,1ヶ月以内に発症した動脈あるいは静脈血栓症を半年間で3例経験したと報告し ている.これらの現象がリバウンド現象によるかは不明であるが,われわれ歯科従事者 はワルファリンと同程度の頻度で発生するダビガトラン休薬後の血栓塞栓症を極めて重大に受け止めるべきである.  ダビガトラン内服時の抜歯時期に関しては,腎機能が正常な欧米人を対象に行ったダビガトラン 内服患者におけるランダム化比較試験では,ダビガトランの最高血中濃度到達時間(Tmax)中央 値は1.5時間程度であったことから,van Diermenらは抜歯前にダビガトランを休薬す る必要はないが,内服1~3時間以降に抜歯するよう推奨している .しかしながら, Stangierらのデータは空腹時投与のものであり,ダビガトランのインタビューフォームによると, 1日2回食後に内服した場合のTmax中央値は4時間程度であった.そのため,矢坂ら はダビガトラン内服6時間後の抜歯を勧めており,この方法で10例程度の抜歯を行ったが出血性 合併症はなかったと記載している.また,European Heart Rhythm Associatiやベルギーのthrombosis guidelines groupは,Practical guideにて,1~3本の単純抜歯で はダビガトランを休薬する必要はないが,可能であれば内服12時間以降のトラフ時に処置を行い, 抜歯窩の縫合と完全止血後の帰宅,さらには術後の5%トラネキサム酸による1日4回の含嗽を5 日間継続することを推奨している。 

 ワルファリン投与により生じる抗凝固効果には大きな個人差が存在し

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出血の定義  

術中出血:手術中の出血  術後出血:止血処置が終了した後に再度出血したもの 遅発性出血は抜歯おおむね数日後(a few days)に出血したもの

 

未分画ヘパリン,低分子ヘパリン追加5, 6)  未分画ヘパリンは分子量5,000~20,000の異なった分子量の物質の集合体である.未分画ヘ パリン自体は抗凝固活性を示さず,血漿中の生理的凝固阻止因子であるアンチトロンビンⅢ(AT Ⅲ)を介して血液凝固系を抑制する.未分画ヘパリンの投与法には静注法と皮下注法があり,モ ニタリングとして活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を測定して,健常者コントロー ルの1.5 ~2.5倍になるように量を調整する.  低分子ヘパリンは未分画ヘパリンの出血性副作用低減のため開発された薬剤である.低分子ヘ パリンは均一な分子量5,000前後の物質で,第十因子(Xa)あるいはカリクレインに対して阻 害作用をもつ.Xa活性からみた半減期も未分画ヘパリンに比べて2~3倍長く,皮下注投与で の吸収率は非常に高く,活性持続時間は16時間前後とされ,欧米では低分子ヘパリンが血栓症の治療および予防薬として使用されている.

ワルファリン投与により生じる抗凝固効果には大きな個人差が存在し,日本人におけるINRの目標値 を2前後にコントロールするためのワルファリンの維持投与量は,患者間で10 倍以上も異なり,特に初 期投与量の設定が臨床上困難となる.また,ワルファリンの平均投与量は,白人やアフリカ系アメリカ 人に比較して日本人や中国人などのアジア人では少なく,人種差の存在も報告されている追加7, 追加8).  したがって,欧米のワルファリン投与患者における抜歯時の管理基準では,INR値≦ 3.5(また は≦ 4.0)であれば,ワルファリンを継続して抜歯を行うと報告されているが,この基準が日本人 にも当てはまるか否かを検討する必要があ

抗血栓療法

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英国のガイドラインでは,血液凝固能検査のPTINR(Prothrombin Time-International Normalized Ratio: プロトロンビン時間の国際標準比,以下 INR)値が2.0~4.0の治療域に安定している場合にはワルファリンを継続したまま抜歯を施行し ても重篤な出血性合併症はないため,中断するべきではないとしています(Br Dent J, 203).しかし,本邦では,医師と歯科医師の間で,抜歯時のワルファリ ンや抗血小板薬の取り扱いに関しての統一見解がなく,各施設により対応が異なり,依然として同 薬剤を中断して抜歯を行う施設が多いのが現状と思われます.また,医師や歯科医師だけではなく 抜歯時にワルファリンや抗血小板薬を中断すると認識している患者がいるのも問題です.そのため, 歯科領域において日本人に適したエビデンスに基づくガイドラインを作成し,医師と歯科医師との コンセンサスを形成する必要があります.

 

抗血栓療法  

抗血栓薬には,血管が閉塞されないように血栓の形成を抑える抗凝固薬と抗血小板薬の他に, 形成された血栓を溶解する血栓溶解薬があり,抗血栓療法は,血栓形成抑制を目的とした抗凝固 ならびに抗血小板薬療法,血栓除去を目的とした血栓溶解療法に大別される

 

本邦の代表的な抗血栓薬
<抗凝固薬>

経 口:

ワルファリンカリウム(ワーファリン®) 直接トロンビン阻害剤 ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩酸製剤(プラザキサ®) 選択的直接作用型第Xa因子阻害剤 リバーロキサバン(イグザレルト®) アピキサバン(エリキュース®) エドキサバントシル酸水和物(リクシアナ®)

非経口:

ヘパリン製剤  未分画ヘパリン  低分子量ヘパリン ダルテパリン(フラグミン®,ヘパクロン®) エノキサパリン(クレキサン®) 抗トロンビン剤 アルガトロバン(アルガロン ®,ノバスタン ®,スロンノン®) ヘパリノイド ダナパロイドナトリウム(オルガラン®) 合成Xa阻害剤 フォンダパリヌクスナトリウム(アリクストラ®)

<抗血小板薬>

経 口:

アスピリン(バイアスピリン®,バファリン81®) 塩酸チクロピジン(パナルジン®,チクロピン®) 硫酸クロピドグレル(プラビックス®) ジピリダモール(ペルサンチン®,アンギナール®) シロスタゾール(プレタール®) イコサペント酸エチル(エパデール®) 塩酸サルポグレラート(アンプラーグ®) トラピジル(ロコルナール®) ベラプロストナトリウム(ドルナー®,プロサイリン®) リマプロストアルファデクス(オパルモン®,プロレナール®)

<血栓溶解薬>

t-PA剤(組織型プラスミノーゲンアクチベーター),ウロキナーゼ

岡山県 岡山市北区 今保 久米 中山道 延友 白石 花尻 北長瀬 西バイパス近く

抗血栓薬を使う患者さんへのアプローチ

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近年のワーファリンを投与されている患者さんへの観血的処置の考え

抜歯にあたりワルファリンを中断すると約1%に重篤 な脳梗塞を発症し,死亡例も報告されています(Arch Intern Med, 158: 1610-1616, 1998, 構造化 抄録5).また,脳梗塞患者が再発予防のために服用しているアスピリンを中断すると,脳梗塞発 症率が3.4倍になるとされています(Arch Neurol, 62:1217-1220, 2005, 構造化抄録70).ワルファ リンや抗血小板薬を中断することによる血栓・塞栓症イベント合併へのリスクがあることから,同 薬剤は中断しないで抜歯することが望ましく,英国のガイドラインでは,血液凝固能検査のPTINR値が2.0~4.0の治療域に安定している場合にはワルファリンを継続したまま抜歯を施行し ても重篤な出血性合併症はないため,中断するべきではないとしています.

 

服薬を中断せず抜歯を行う施設が多くなってきたが,「継続」か,「中断」かの選択は,施設や医師, 歯科医師によって異なり,まだ十分なコンセンサスが得られていないというのが現状と言ってよい. しかし最近,にわかにワルファリン中断により約1%に重篤な脳梗塞による死亡例などを誘発する 危険性が問題視され,術中出血あるいは後出血など局所のトラブルより,なんといっても全身的リ スクを優先させて治療計画を立てる必要がある.

旧ガイドラインのCQに対して,最近5年間に出 された論文を参考に,最新の情報に基づいた推奨・解説を提供することです.また,新規経口抗凝 固薬服用患者あるいはアスピリン,塩酸チクロビジン以外の抗血小板薬の服用患者,さらに複数の 抗血栓治療薬を服用している患者の抜歯をいかに安全に行うかの推奨・解説を,最新のアプローチ で提供することです.

新規経口抗凝固薬服用患者あるいはアスピリン,塩酸チクロビジンに加え,そ れ以外の抗血小板薬の服用患者,さらに複数の抗血栓治療薬を服用している患者の抜歯をいかに安 全に行うかという新規CQに対し,2014年Mindsシステムで推奨・解説を行うものになる。