アクアデンタルクリニック院長の高田です。
今日は 日本歯周病学会から発表されている
「歯周病と全身の健康」 を勉強しています。
ガイドラインの中の大切な内容をまとめながら、ブログに残していきたいと思います。
・歯周病原細菌以外の口腔内細菌は動脈硬化のリスクを高めるか?
歯周病原細菌以外の細菌による動脈硬化に関する報告はあるが,その発症を高
めるリスクに関する直接的な報告はなく,十分なエビデンスは認められない。
歯周疾患と同様に動脈硬化性疾患は生活習慣病の一つとされ,喫煙など共通するリスク因子が関係している 5)。動脈硬化性疾患のリスク因子として,①血清中炎症マーカー 6, 7),②血清脂質 8),③血管内皮細胞機能や動脈弾性変化 9)などがあげられ,歯周病原細菌(Porphyromonas gingivalis)の動脈硬化病変部位からの検出が報告されている 10-14)。これは心血管系疾
患と脳血管障害の原因として脂質異常症,高血圧,糖尿病などの生活習慣病関連リスク因子で説明できない発症例に,歯周疾患が関与している可能性を示唆しているものと考えられる。
しかしながら歯周病原細菌以外の口腔内細菌が動脈硬化性疾患に関与するという報告 15)はあるものの,その発症リスクを高めるという報告はない。重度アテローム性動脈硬化症患者20名と対照群10名の比較研究でFusobacterium, Streptococcus, Prevotella, Enterococcus,
Porphyromonas, Veillonellaの検出率に有意差は認められなかったという報告 16)から,現時点では歯周病原細菌以外の口腔内細菌が動脈硬化性疾患の発症リスクを高めるという科学的根拠は見つからない。
今後更なる歯周疾患と動脈硬化性疾患へのリスク因子に関する臨床研究が必要であることが示された。
・歯周病と早産・低体重児出産
WHOでは,妊娠37週未満での出産を早産,新生児体重2,500g未満での出産を低体重児出産と定義している。
正期産・正常体重児出産と比較して早産・低体重児出産での新生児の死亡率および有病率は高く,また,その発現は家族への精神的および経済的な負担を生じ,
社会に対しても医療費の増加となる。
総出産に対する早産・低体重児出産の発現率は人種および地域によって異なり,
アフリカで15%前後,ヨーロッパで5〜6% 1)と報告されている。
日本でのそれらの割合は年々増加し,平成22年の統計結果では10%程度とされている 。
早産・低体重児出産のリスクファクターとして,喫煙,飲酒,薬物(麻薬),多胎妊娠,などがある。通常分娩でも出産直前には,胎盤などの産婦人科器官における女性ホルモンバランスの変化や炎症性サイトカインの上昇を伴うことが知られ,上行性膣炎などの産婦人科器官での炎症が血中サイトカインレベルを上昇させ早産・低体重児出産に至らしめるという分娩のメカニズムが提唱されている 。
そこで,歯周組織中および血中での炎症性サイトカイン濃度が上昇し,
治療によってその濃度が低下することが知られている歯周病への罹患と歯
周治療の実施が,早産・低体重児出産にどのように影響するかについて注目を集めている。
本テーマでは,妊婦における歯周病罹患・妊婦への歯周治療と早産・低体重児出産との関連性について検索することを目的とし,以下の2つの臨床質問を設定した。
・歯周病は早産・低体重児出産を増加させるか?
歯周病に罹患した妊婦では,早産,低体重児出産,早産および低体重児出産へ
のリスクは増加する。
早産・低体重児出産以外の妊娠に伴う併発症として妊娠高血圧症候群(以前の妊娠中毒症)がある。妊娠高血圧症候群と歯周病罹患との相関に関してシステマティックレビューが報告されている。AAP/EFPのコンセンサスレポートでは5つの論文,4,224名のデータによるメタアナリシスからOR=1.61,95% CI:1.36〜1.92の結果が報告され(エビデンスレベル2a) ,12本の論文によるシステマティックレビューでは8本に相関があったとしている
歯周病と早産・低体重児出産との相関発現のメカニズムについて,唾液中あるいはプラーク中の歯周病原細菌,血中抗体価,GCF中あるいは血中のサイトカイン濃度,SNPs,など
様々なバイオマーカーによる検討が行われている。GCF中のIL-1β,PGE2,TNF-αと早産・低体重児出産との有意な相関がシステマティックレビュー 13)(エビデンスレベル2a)に報告されているが,メカニズムを明確に説明できるとは結論づけられていない。
・歯周治療を早産・低体重児出産の予防を目的として行うべきか?
妊娠中期に行われる妊婦への歯周治療は安全であり,妊婦の歯周組織の健康回
復のために有用である。
しかしながら,妊娠中期の歯周治療は早産および低体
重児出産を抑制しないという明確なエビデンスの存在から,
妊婦に対して早産・低体重児出産の予防を目的とした歯周治療は行わないように勧められる。
歯周病と誤嚥性肺炎
肺炎が2011年から日本人の死因の第3位となった。2014年には約118,000人となり,死因の約10%弱を占めるようになっている 。
この肺炎死亡者の実に約95%は75歳以上の高齢
者であり,90歳以上の高齢者の死因の第2位に相当する 。
高齢者の肺炎,特に医療・介護関連肺炎の主原因は,誤嚥性肺炎と考えられている 。
誤嚥性肺炎に関連する発熱を防止するために口腔内の細菌量を減少させることが効果的であると日本から発信され ,口腔ケアの有用性が多くの臨床研究で示されてきた。
しかし,口腔ケアの定義に曖昧な場合が多く,歯科治療を含む包括的口腔衛生管理か,歯科医療従事者による専門的口腔衛生管理か,通常の医療従事者による口腔衛生管理か,
さらには介護従事者あるいは家族等による口腔衛生管理などか曖昧である。
誤嚥性肺炎の発症や悪化と歯周病との関連性を明確に示したものはなく,
歯周病治療の影響に関しては明瞭ではない。
80歳で20歯以上の現在歯数を有する者(8020達成者)が40%に達する時代になり,歯周病罹患率が高いことを考慮すると,今後には介入研究が強く望まれる。
動物を用いた研究は,少ないが存在する。
それらは,歯周病原細菌の生死にかかわらず,呼吸器系に炎症を起こすことを示している。
したがって,口腔内細菌の量を減少させる歯周病治療と口腔衛生管理が高齢者の肺炎の防止に役立つことは想像しやすい。
現状では,高齢者あるいは手術後の人工呼吸器装着患者を対象とした臨床研究が多いなかで,以下の臨床質問を設定した。
・口腔内細菌は誤嚥性肺炎に関与するか?
慢性肺疾患患者ではデンタルプラークから検出される肺炎原因菌の陽性率が高
いことが報告されている。しかし,現在得られるエビデンスは少数の横断・縦
断研究のみであり,また被験者も誤嚥性肺炎に限定されていないため,口腔内
細菌が誤嚥性肺炎に関与すると明確に結論づけるにはエビデンスが不足してい
る。さらに,歯周病原細菌との関連については,特にPorphyromonas gingivalisで疫学研究と動物モデル研究において数件報告がみられるが,
こちらも同様にエビデンスが不足している。
・歯周病で誤嚥性肺炎のリスクが高まるか?
観察研究が1件のみであり,高齢者では誤嚥性肺炎のリスクの有無にかかわら
ず歯周病罹患度が高いので,歯周病が誤嚥性肺炎のリスク因子としては結論づ
けられない。ただし,誤嚥性肺炎のリスクの高い高齢者は,歯周病に罹患して
いるのにブラッシング主体の「口腔ケア」で対応しているのが現状である。
歯周病で誤嚥性肺炎のリスクが高まると考えることは論理的であるが,歯周病と誤嚥性肺炎での検索である#4では20件がヒットした。しかし,Clinical Trailで絞り込むと,実質的な臨床研究は#8の1件になった。この文献では,観察的横断研究にて,誤嚥の危険性が高い者に口腔衛生状態が悪いことから,口腔衛生状態の悪さが誤嚥性肺炎の危険性を上げていると推測している。
ただし,歯周病の罹患度は誤嚥の危険性の有無にはかかわらず高く,歯
周病の重症度が重くなっている傾向を示したにとどまる。
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