アクアデンタルクリニック院長の高田です。
今日は 日本歯周病学会から発表されている
「歯周病と全身の健康」 を勉強しています。
ガイドラインの中の大切な内容をまとめながら、ブログに残していきたいと思います。
・歯周病は虚血性心疾患に影響するか?
歯周病の罹患によって,虚血性心疾患の有病率およびそれに伴う死亡率が高く
なる。また,歯周病は全身性の炎症と血管内皮細胞の機能に影響を及ぼすが,
虚血性心疾患の発症および進行との関連については十分なエビデンスは認めら
れない。
虚血性心疾患とは,冠動脈の閉塞や狭窄などによって心筋への血流が阻害され,心臓に障害が起こる疾患の総称であり,狭心症や心筋梗塞がこの分類に含まれる。
1989年,Mattilaらによって口腔の健康が心筋梗塞の発症と関連することが報告されて以来 ,歯周病と虚血性心疾患の関連が注目されているが,これまでの疫学研究によると因果関係の有無に関してのコンセンサスは得られていない。
多くのリスク因子が歯周病と虚血性心疾患で共通していることが交絡因子となっていることが報告されている。
歯周病の疾患定義の統一と,疫学研究における客観的臨床パラメーターの選定,標準化された治療プロトコルに基づいた更なる介入研究が必要と考えられる。一方で歯周病が短期的な全身性の炎症状態と血管内皮細胞の機能に影響を及ぼすこ
とはコンセンサスが得られていることから,長期的な観察研究による検討が求められる。
・歯周病は虚血性脳血管疾患に影響するか?
虚血性脳血管疾患とは,脳の血管の血流障害により脳組織の一部が壊死する疾患の総称であり,意識障害や運動障害等を起こし,重篤な後遺症のために寝たきりになる原因疾患である。
2014年にLafonらが行ったメタアナリシスによると,歯周病が脳血管疾患の発症を上昇させることを報告している。
・歯周病になると動脈硬化性疾患のリスクマーカーは上昇するか?
炎症性マーカーである C反応性タンパク(CRP)は動脈硬化性疾患のリスク
マーカーとして有用であり,歯周病罹患により上昇するが,その他のリスク
マーカーについては,十分なエビデンスは認められない。
歯周病に関連する動脈硬化性疾患のリスクマーカーとして多数報告されているうち,主要なものに①血清中炎症マーカー,②血清脂質があり,それぞれについて解説を加える。
血清中炎症マーカー
特に報告が多いものはC反応性タンパク(CRP)があげられる。CRPは全身の炎症マーカーであるばかりでなく冠動脈疾患のリスクマーカーとしても有用とであることが報告されており ,歯周病患者は健常者に比較して,血清中CRP濃度が有意に増加することが明らかにされている。
一方で,動脈硬化症への関与が報告されている腫瘍壊死因子(TNF),イ
第1部 臨床研究からのエビデンス
ターロイキン(IL)-1,IL-6,IL-8といった炎症性サイトカインも歯周病の罹患により増加することが示唆されているが,コンセンサスは得られていない 3-5)。歯周病罹患による炎性マーカーの上昇が,動脈硬化性疾患の発症や進行を引き起こすのに量的に十分であるかは
今後更なる検討が必要である。
血清脂質
脂質代謝異常は動脈硬化性疾患発症の重要なリスク因子であり,血清中のLDLコレステロールの増加,もしくはHDLコレステロールの減少がイベント発症のリスクを増加させることが疫学的に明らかとなっている 。
本邦で行われた大規模コホート研究である久山町研究においては,平均ポケット深さが2mmを超える集団においては2mm未満の集団と比
較してHDLコレステロール値が有意に低いことが示されている 。
また近年,歯周病原細菌に対する血清抗体価が高い歯周病患者では,
LDLコレステロール値が有意に高いことが報告されている 。
その一方で,健常者と歯周疾患罹患において血清脂質プロファイルは変
わらないとする報告も認められる 。歯周病をもつ患者はその生活背景から,肥満や糖尿病,高血圧,生活習慣病を併発していることが多く,疫学研究においてはその点を考慮して
検討を行う必要がある。
・歯周病の治療を行うと動脈硬化性疾患のリスクマーカーは改善す
るか?
歯周病は歯周ポケットへの歯周病原細菌の感染によって引き起こされる歯周組織の破壊を伴う慢性炎症性疾患である。
動脈硬化は血管内皮が肥厚し,薄い線維性皮膜で覆われた粥状
プラークの形成と炎症性浸潤を病態として示す。
動脈硬化性疾患のリスクマーカーとして,
①血清中炎症マーカー(CRP,IL-6などの上昇) ,②血清脂質(LDLの上昇,HDLの低) 9)および,③血管内皮細胞機能や動脈の弾性の低下 10)などがあげられる。歯周病原細菌
であるP. gingivalisが血管内皮細胞に侵入できること,
動脈硬化病変から検出されることが示されている。
また,古典的なリスク因子である高血圧,脂質異常,糖尿病などの因子
だけでは動脈硬化性疾患の発症原因を説明できないことから歯周病との関連の可能性が指摘されている 。
①歯周病の治療を行うことでIL-6,CRPなどのパラメーターの値が低下
することが報告されている 。
日本人における冠動脈疾患予測における高感度CRPの
カットオフ値が1.0mg/Lであり,欧米人と比較して極めて低い値でもリスクとなることが示されている 。
②血清脂質量に関しては歯周治療によってHDL値が改善することが示さ
れている 。
さらに,③高度の歯周治療を行うことで動脈壁の状態が改善されることを示
す報告がある 。
その一方で,米国心臓協会(AHA)では歯周病の存在が虚血性心疾患の
発症,進行に関連するというエビデンスがないことを報告している 。
これまでに歯周治療によって動脈硬化性疾患のイベント発生が抑制されるというエビデンスは示されていない。
しかし,歯周病によって引き起こされた炎症は動脈硬化性疾患のリスク因子となりうることが考えられることから,
今後歯周治療の有無によるコホート研究が行われる必要がある。
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